ブログ - 将棋レッスン ワン・トゥ・ワン

初段ナビゲーターのランダムノート


この春、藤井聡太竜王・名人の詰将棋力が話題になりました。3月30日、詰将棋解答選手権チャンピオン戦に6年ぶりに出場し、圧巻の「解図力」で6回目の優勝。全10問、ただ一人の満点。難問とされる第2ラウンドの5問(制限時間90分)をわずか65分で解答しました。

(参考)
詰将棋解答選手権(第22回・2025年)チャンピオン戦出題作
【全体】総合成績 - 詰将棋解答選手権 速報ブログ

4月9・10日、名人戦七番勝負第1局(対永瀬九段)では、最終盤、相手玉を30手超の即詰に討ち取り、ファンのみならず、関係者たちの度肝を抜きました。

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(途中図は△9七金まで)
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「△9七金(途中図)と打って、読み抜けがなければ詰んでいるんじゃないかと考えていました」「詰み手順そのものは、ものすごく複雑ということではないと思うんですけど」(いずれも本人談)。おそらく図の4手前、37分の考慮で△2四同銀と桂を食いちぎるときに読みをまとめたものと思われます。先の解答選手権に比べれば……ということでしょうか。

(投了図は△5三角まで)
20250409永瀬藤井134手

聡太さんは詰将棋作家としても名高い。詰将棋の創作を「盤上に現れる(他人の気づきにくい)詰みの局面の発見」と換言するなら、そうした「作図力」が、指し将棋にも活かされていることは明らかでしょう。強さの象徴とされる「寄せの射程の長さ」や、終盤の逆転術として、相手に難しい選択を強いる局面を作り出す技術なども、類い稀なる作図力によるものかと。

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中盤に差し掛かった女流順位戦。各クラスとも上位と下位の二層に分かれているでしょうか。いずれも実力伯仲。一局一局の重みは順位戦ならではですね。戦況をおさらいしましょう。

(戦前の予想)
(38)どこよりも早い女流順位戦昇級者予想 A級・B級(2024/10)
(38)どこよりも早い女流順位戦昇級者予想 C級・D級(2024/10)

A級(対戦表はこちら
【5回戦までの成績】
(4-1)01○福間香奈 03…加藤桃子 04…山根ことみ 09…鈴木環那
(3-2)02◎伊藤沙恵 05…上田初美

3-2まで6名が競う混戦。01福間さんは休み明けも絶好調。母は強しですね。

B級(対戦表はこちら
【5回戦までの成績】
(5-0)01○渡部愛
(4-1)05…野原未蘭
(3-2)02△塚田恵梨花 03…伊奈川愛菓 10◎加藤結李愛

昇級2名。5-0の01渡部さんはほぼ決まり。残り1枠は3-2まで、実質4名の争いでしょうか。

C級(対戦表はこちら
【4回戦までの成績】
(4-0)03△中村真梨花
(3-1)01○室田伊緒 04△内山あや 06…清水市代 07…小髙佐季子 10…山口恵梨子 15◎大島綾華 20…久保翔子

昇級3名。4-0の03真梨花さんはほぼ決まり。残り2枠は3-1の7名と、2-2の02北村さんまで、実質8名の争いでしょうか。

D級(対戦表はこちら
【4回戦までの成績】
(4-0)05○今井絢 07△磯谷祐維 08△松下舞琳 14…山口稀良莉
(3-1)01…礒谷真帆 02…藤井奈々 09…川又咲紀 12…木村朱里 13◎梅津美琴 33…相川春香

昇級4名。4-0の順位上位、05今井さん、07磯谷さん、08松下さんの3名はかなり堅そう。残り1枠は3-1の13梅津さんまで、実質6名の争いでしょうか。

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(図は△2三銀まで)
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女流順位戦D級より▲梅津女流1級(当時)脇田女流初段(対局2024/12/11、配信2025/01/05)。以前このコラムでも取り上げたごひいき同士の対戦です。梅津さんは師匠(戸辺七段)譲りの強烈な攻め将棋。図から▲3五歩△3二金▲3八飛△3五歩▲4六金△4五歩▲3五金△3四歩▲4五金△同桂▲同角と開戦しました。

両者力一杯戦った熱局は179手で梅津さんの勝ち。下の画像は棋譜中継の最終局面です。藤井聡太さんの勝局、いわゆる「藤井曲線」に感服する一方、下のような「ジェットコースター」もまた、ファンの心を熱くするものがあります。どうか(せめて順位戦だけでも)中継や後日配信を増やしていただけますよう。

20241211梅津脇田グラフ

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吉池隆真四段は、三段時代の2023年、加古川青流戦で準優勝。振り飛車に対し、右玉を用いて強敵を連破していた。(私は右玉のヘビーユーザーなので)ぜひとも四段に上がってほしいと願っていました。

対振り右玉と言えば、糸谷八段の糸谷流がよく知られています。昨年度のNHK将棋講座でも解説していましたが、自身の対局ではとんと見掛けません。やはりトッププロのシビアな研究勝負には不向きなのでしょうか。

吉池さんのプロデビュー戦は竜王戦6組ランキング戦(2024/12/13)。西山女流三冠に対し、名刺代わりとばかりに対振り右玉を採用して快勝しました。読売新聞の観戦記によれば、奨励会時代の右玉採用率は9割。「試行錯誤を続けているが、まだしばらくはこれで行く」と明言しています。

まだ二十歳の個性あふれる「右玉王子」。盤上盤外でのフレッシュな活躍を期待しましょう。

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(1図は▲6七銀まで)
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上の対西山女流三冠戦。1図まで先手陣の何と美しいことでしょう。以下△8三金▲8九飛△6二金▲6五歩△同歩▲4五歩△7二金▲4六角(2図)と進み、戦いになりました。

(2図は▲4六角まで)
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狩山幹生五段は今年度、竜王戦で連続昇級し五段に昇段。棋王戦でもトーナメント入りしました。俊英ひしめく井上九段門下。後輩に当たる藤本五段や上野四段の活躍にも刺激を受けているでしょうか。

ウィキペディアによれば、「自分から仕掛けることは絶対にしない」徹底した受け将棋を持ち味としているとか。いいないいな、湧き上がるシンパシー(笑)。ぜひとも自身の考える棋理や勝負哲学などを拝聴したいものです。

私が特に注目したのは、棋王戦挑戦者決定トーナメントの緒戦で、永瀬九段を持将棋指し直しの末に退けた対局でした。「負けない将棋」の永瀬「軍曹」に粘り勝った。「令和の受ける青春」と呼ぶにふさわしい殊勲でした。かつて永瀬さんがそうであったように、今後攻守のバランスが加われば、さらなる飛躍が望めるでしょう。

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(1図は△9五歩まで)
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上の対永瀬九段戦(2024/06/27)。角換わりから1図182手で持将棋。指し直し局は相掛かりから2図187手で狩山四段(当時)の勝ち。永瀬さんから2局続けて入玉を果たしました。総手数369手、終局時間は翌日の0時45分でした。狩山ワールド、恐るべし。

(2図は▲3二とまで)
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遅れてきた大器・佐々木勇気八段が竜王戦の挑戦者に名乗りを上げた。惜しくも2勝4敗で敗れたが、食事や封じ手など、天衣無縫な振る舞いで、初めてのタイトル戦を大いに満喫したようだ。第6局の会場・指宿市にも行き着き、当座の目標は達成できたことでしょう(笑)。

肝心の対局では作戦を凝らし、先手番で全3局とも有利な局面を作ってみせた。中でも第4局の「陽動・二手損角換わり腰掛け銀」は、大舞台で快勝したことや、おそらくAI由来ではないことから、今年度の升田幸三賞の最有力候補でしょう。(受賞すれば2回目)

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(1図は▲5六銀まで)
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上の第4局(▲佐々木勇気八段△藤井聡太竜王、2024/11/15-16)より。1図の▲5六銀は4六~4五~5六と移動したもの。通常の腰掛け銀より二手損しています。損することで、①自分が指さない手や、②相手に指させた手をプラスにしようとした。それは、①▲4六角(2図)と打つ、②▲9六歩(3図)と突き上げる(歩を入手して▲7四歩の狙い)に見られます。天才ここに極まれり。

(2図は▲4六角まで)
20241115佐々藤井33手

(3図は▲9六歩まで)
20241115佐々藤井39手

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